概 要

本展に寄せて

本展は“いま、ここ”をテーマに、深遠な禅の世界観から一作家が切り取った小世界を書で表現した企画展です。
過去を振り返る。未来を想像する。これらは時に大切ですが、本当に大切なのは“いま、ここ”であることを我々は忘れがちです。禅は“いま、ここ”に我々を立ち戻してくれます。

贏得

-かちえたり-

やっとこれだけ手にすることができた。さて、あなたが人生かけて手にしたものとは?

禅は昨今“ZEN”として世界中に浸透し、先端企業からサブカルチャー、日常生活に至るまで様々な形で取り入れるまでになりました。“ZEN”が世界に浸透する一方で、“禅”は昨今日本人の意識から薄れつつあるように感じます。和文化の礎たる禅精神の魅力を共有したい、新しいライフスタイルに相応しいカタチで提案できないか、ここ数年考え続けてきたテーマです。

奇しくも新潟は、良寛はもちろんスティーブ・ジョブズの師・乙川(知野)弘文禅師の故郷です。禅を含めた和文化の魅力を今、ここで我々に取り戻し、我々の手で再発信していく、その端緒を拓けたら…、などという大それた構想の下での小さな企画展です。

表装には新潟が世界に誇る亀田縞(KAMEDAJIMA)さんの力をお借りし、作品に彩りと、和心と、reborn(再生)の意を添えました。
語意も含めて書表現を味わっていただければ幸いです。

誰が家にか明月清風無からん

どこの家にも月は照り、清らかな風は吹く。ないと思うのは、ただ気づかないだけ。

ZENと私

アメリカで“ZEN”が流行し始めたのは1960年代、ヒッピーブームに乗ってと言われています。各地に禅センターが設立されました。1970年代にはサブカルチャーにも影響を及ぼし始めました。『スター・ウォーズ』や『マトリックス』、ブルース・リーやジョン・レノン、スティーブ・ジョブズ…。気づけば、私を熱狂させたものにはどれも多分にZENの影響がありました。そして現在、マインドフルネスにミニマリズム、ヴィーガンなど、“引き算のスタイル”が巷に溢れています。プレゼンやパスタ、スマホまで“ZEN”だと名づけ始めました。

門外漢の私ですが、書を志してから禅文化に興味を持ち、禅語や墨蹟に親しみ、人並みに禅寺を巡りました。禅をテーマと決め、京都の禅寺で体験して以来、細々とながら欠かさず実践する日々です。

縁起

すべて物事は他との関係が縁となり生じる。今、ここから何かが動き出す。

 書もまた“引き算の美学”です。書はもとより、和文化そのものが禅の影響を深く受け育まれてきました。ところがその精神が現代の日本において薄れつつあるようです。一方、アップル製品の“Think Simple”に代表されるように欧米が熱心に禅の精神を導入し続け、成功を収めています。そしてそれを日本の若者が憧れる…なんとも皮肉な構図です。

 和文化は大きな可能性を秘めています。それに気づくことが我々の自信と誇りを取り戻す第一歩です。それは幸せになるための営みです。大事なものはすぐそばにある。本展がそれに気づく一助にでもなれば幸いです。

令和4年4月
佐藤 雄司